: 3.3 LATEXの入力ファイル
: 3. はじめの一歩
: 3.1 はじめに
本などを出版する際,執筆者はタイプした印刷用の原稿を
出版社に渡します.
そして,出版社のデザイナが本のレイアウト(文章幅,フォント,
見出しの上下のスペース量などなど)を決定します.
デザイナはレイアウトの指示を原稿に書き込み,
印刷工に渡します.
この指示に従って本が組版されます.
本のデザイナは,原稿執筆中に執筆者が意図していたことを
理解し,プロの知識に基づいて原稿に書かれている内容から
章見出し,引用文献,例題,数式などのレイアウトを決定します.
LATEXを使用して組版を行う場合,LATEXが本のデザイナ,
TEXが組版工としての役割を分担します.
しかし,LATEXは単なるプログラムでしかないため,
LATEXが解釈できるようにするために指示を与えなければ
なりません.
つまり執筆者は,作成している文書中に論理的な構造を
明示した情報もあわせて与えなければならないのです.
この情報というのが,``LATEXコマンド''として文書中に
書き込まれるものなのです.
このLATEXの方法は,MS Wordとか
Corel WordPerfectといった最近のワープロの手法である
WYSIWYG3.1とは全く異なっています.
これらのアプリケーションソフトでは,執筆者はコンピュータに
文書を入力しながら直接文書のレイアウトを決定していきます.
このようにして,最終的に印刷されたものがどのようになるかを
コンピュータ画面上で確かめることができます.
LATEXを使うと,文書を入力している際には通常,
最終的な出力結果を確認することはとても難しくなります.
しかし,LATEXでファイルを処理(組版)した後であれば,
最終的な出力結果をコンピュータの画面上に表示することで
確かめることができます.
つまり,実際にプリンタから文書を出力する前に修正を
行うことができるのです.
レイアウトのデザインは,技能です.
組版知識の未熟な執筆者は,よく重大な体裁間違いを起こします.
それは,「文書が芸術的にすばらしく見えるのは,
うまくデザインされているからだ」というように,本のデザインは
たいてい美的感覚の問題だと思っているからです.
しかし文書は読まれるべきものであり,美術館などに
飾られるものではありません.
読みやすさと理解しやすさは,その見栄えよりもずっとずっと
重要なのです.
例えば,
- 見出しにおける文字の大きさや番号付けは,読者にとって
章や節の構造が分かりやすいように選ばれていなければ
なりません.
- 一行の長さは,紙面が美しく見えるくらいには長く,また
読む人の目が疲れないくらいには短くなければなりません.
WYSIWYGシステムでは,見た目が良いだけで構造の
ほとんどない,もしくはあっても矛盾した構造をもった文書を
作りがちです.
しかしLATEXでは,
文書の論理的な構造を執筆者が明示する必要があるため,
そういった間違った体裁になるのを防ぎ,
最も適したレイアウトを行うことができるのです.
WYSIWYGシステムに慣れた人がLATEXを使用している人に,
「いわゆるワープロと比べて
LATEXの良い点,
もしくは良くない点」を話題にすることがよくあります.
そんな議論はたいてい手に余るので,
始まってしまったら低姿勢を保つのがベストでしょう.
しかし,時にはそんな議論から逃れられなくなることも...
そこでLATEXに有利な情報をここに示しておきましょう.
LATEXがワープロよりも優れている主な点は,以下の通りです.
- まるで本当に``印刷された''ように,
本職並みに巧みにレイアウトされた文書が作成できる.
- 簡便な方法で,数式を組版することができる.
- 使用者は,文書の論理的な構造を定めるほんの少しの
わかりやすいコマンドを覚えるだけでよく,
実際のレイアウトをいじくり回す必要はほとんどありません.
- 脚注,相互参照,目次や参考文献といった
複雑な構造でさえ簡単に作成することができます.
- LATEXの基本配布システムが全く対応していない
ような組版作業の多くに対して,
フリーの追加拡張パッケージが存在しており,
このパッケージを使うことによって,
POSTSCRIPTファイルによる図を文書中に
挿入したり,厳格な規格に従う参考文献を
組版したりすることができます.
これら追加拡張パッケージの多くは,
The LATEX コンパニオン [3]に説明されています.
- 執筆者が適切に構造化されたテキストを
書くことができるように,LATEXは手助けします.
つまり構造を明記することによって,
それに従ってLATEXが動作するのです.
- LATEX2eの組版エンジンであるTEXは,
高い可般性があり,また無償で入手できます.
したがって,現在稼働している
ほとんどのコンピュータ上で動かすことができます.
LATEXには次のような欠点もあります.
私にはそんなにたくさんあるとは思えないのですが,
山と挙げる人もいるでしょうね ^_^;
.
- LATEXは,魂を売り渡した人には
たいした効果をもたらさないでしょう...
- あらかじめ定義されている文書レイアウト用に
パラメータが調整されていますが,
新たに全体のレイアウトをデザインすることは
困難で時間がかかります3.2.
- 構造化されていない文書や系統立てて整えられていない
書類を書くことは難しくなります.
- 最初の一歩を促してはくれますが,
ハムスターは決して論理的マークアップの概念を
完全に理解しているわけではありません.
: 3.3 LATEXの入力ファイル
: 3. はじめの一歩
: 3.1 はじめに
Hiroyuki Ohsaki (oosaki@ics.es.osaka-u.ac.jp)