中村 匡秀 (なかむら まさひで)神戸大学数理・データサイエンスセンター 副センター長・教授 |
ソフトウェア工学やサービス指向アーキテクチャ(SOA)の応用に関する研究に取り組んでいます.
全ての発表論文は Research Map をご覧ください.
サービス指向アーキテクチャ (SOA, Service-Oriented Architecture)は,ソフトウェアやシステム開発におけるアーキテクチャパラダイムの1つです.SOAとは,システムの機能をすべてサービスという単位でとらえ,公開し,連携させて,さらなるサービスを実現します.SOAはWebサービス技術 (REST, SOAP) によって実装され,任意のクライアントプログラムは,あたかもWebを呼び出すがごとく,遠隔にあるサービス(処理)を利用することができます.
従来,SOAは企業情報システムの連携・統合に用いられてきましたが,Webサービスやクラウドコンピューティングの実用化によって現在では様々なシステムに応用されています.メールやスケジュール,データベース,ハードディスク,サーバ,SNSなど,現在ではこうした計算資源がすべてネットワーク上のクラウドで管理され,ユーザはこれらをサービスとして(XaaS, X as a Service) 利用します.
SOAによってあらゆるシステムはすべてサービスとして抽象化されるため,異種分散システムの連携・統合が容易になります.最近のIoTやロボット,AIアルゴリズムもSOAをうまく適用できれば,簡単に連携できるようになります.ここ最近では,1つのアプリケーションを小さなサービスの組み合わせで構成するマイクロサービスというソフトウェア開発手法に発展しています.
SOAによるモノのWeb (WoT, Web of Things)
しかしながら,システムにSOAをどのように適用したらよいか,自明ではありません.例えば,次のような問題があります.
これらの問題は,依然として開発者の経験とセンスに基づいて行われています.
我々の研究室では,SOAをどのように適用していくか,ソフトウェア工学的な視点から研究を行っています.
また,SOAをセンサやクラウド,SNS,ライフログ,HCI等の様々な分野へ応用し,社会が抱える課題を解決することに挑戦しています.
スマートシステムとは,実世界のモノやデバイスと情報システムとをネットワークで連携させ,全体として新たな価値機能を生み出すシステムを指します.Cyber-Physical System (CPS)とも呼ばれることもあります.近年,スマートグリッド (電力) やスマートホーム (住宅),スマートシティ (都市) ,スマートアグリ (農業),スマートヘルスケア (健康・医療) 等,様々なスマートシステムが研究・開発されています.
スマートシステムは,実世界やサイバー空間に存在する様々な種類のシステムが連携する,大規模異種分散システムを構成します.そのため,スマートシステムは,SOAが最も得意とするアプリケーションと言えます.
我々の研究グループでは,SOAを適用したスマートホームシステム CS27-HNS を研究室内に構築しています.CS27-HNSは,テレビやエアコン,照明,カーテン,扇風機等,様々な家電がすべてWebサービスとして利用可能になっています.また,部屋に設置されたセンサもすべてWebサービスでアクセスでき,温度や湿度,音量,気圧,人感等を計測できます.これらを様々なアプリケーションで連携し,付加価値の高いサービスやシステムを研究・開発してきました.
複数のスマートホームを街単位で連携し,さらに道路や鉄道,商店等,街を構成するあらゆるものを連携すれば,街で抱えている様々な課題が解決できるかもしれません.例えば,エネルギー問題,渋滞,大気汚染,安否確認,シャッター通り商店街など,街には様々な問題があります.街に設置したセンサやシステムのログ情報等を大量に集め,街の現状を把握し,街のあるべき姿へとアクションを起こすことで,街をより良い状態に発展させることができます.
スマートシティならではの課題は,とにかく規模が大きいこと.データのサイズや種類が膨大になることは当たり前の事実ですが,それ以上に大量のセンサやデバイスの管理・運用が大変になります.いかに人手をかけずに,スケーラブルかた信頼性高くシステムを運用できるかがカギとなります.
Scallop4SC: スマートシティ向け大規模ログ収集プラットフォーム
スマートシティ環境センシングのための自律センサボックス
軍隊のアナロジーを利用したミッション指向大規模環境センシング
スマートシステムは,お年寄りや体の不自由な人にも期待されています.超高齢化社会において,ICTの力を借りることで,少しでも安心して健やかに暮らせるようにならないか.高齢者に対する工学的なアプローチは,ジェロンテクノロジー (gerontechnology, 加齢工学)と呼ばれます.ジェロンテクノロジーおよびスマートヘルスケアの研究は,世界規模で広がっています.
我々の研究室でも,実際の病院や福祉施設,養護学校と提携し,実際の高齢者や障碍者の方々の意見を聞きながら,役に立つシステム,サービスの開発を行っています.
(a) PCメイちゃん: PC上の音声対話で高齢者の話を傾聴し本人の記録として蓄積する
(b) LINEメイちゃん: スマートフォンのLINEで日々の体調をたずねデータとして見守る
Virtual Agentを活用した「こころ」センシングシステム
使用しているヴァーチャルエージェント技術: (C) 2009-2018 Nagoya Institute of Technology MMDAgent
Model "Mei"
メイちゃん振り返りアプリ: 高齢者自身がメイちゃんとの対話をデータで振り返ることができる
Virtual Care Giver: 在宅高齢者ケアのための仮想エージェント
MIETA: 聴覚障害者のためのマルチモーダル発話可視化アプリケーション
Tales of Familiar: IoTを活用した個人向け話題提供サービス
スマートシステムが提供するサービスには,実世界のヒトやモノ,環境が関わります.そのため,システムのちょっとした不具合が,利用者のけがや環境への被害につながる恐れがあります.ICTがつながることによって便利になる一方で,スマートサービスが安全に動作するかをチェックすることは,今まで以上に重要になってきます.
さらに,スマートシステムは大規模な異種分散システムです.各サービスが試験され安全であっても,複数のサービスを同時に利用すると,機能の衝突が起こって,不具合が起こることがあります.この問題はサービス競合 (Feature Interactions) と呼ばれています.
我々の研究グループでは,スマートサービスが安全かどうかを,形式的に検証する手法について研究を行っています.またスマートホームにおけるサービス競合を定式化し,競合を検出,解消するシステムの開発を行っています.
サービス競合の例:パニックオープン vs 遠隔施錠
ハザード分析による安全性検証
その他にもソフトウェア工学やソフトウェア・プロテクションに関する研究も行ってきました.詳しくは下記を参照ください.